who are you?
落下
クナルパの魚
作品におはなしをつけていただきました。
岸川一郎さん
「クナルパの魚」
私は振り向いた。
ミルク色の光がこぼれている。
クナルパの魚の陰にあった太陽が、ようやく顔を出そうとしている。
まばゆい光。私は目を細めた。
すると、光の中に二つの人影が浮かんだ。
私の妻と、子供だった。
空から水しぶきが舞い降りてくる。
それはクナルパの魚がこぼす涙、といわれている。
水のようだが、水ではない。
水であるならば、花びらのごとく風に舞うはずがない。
しかし、それは手のひらに落ちると、散る。
そして、私の手をぬらす。
「風が、気持ち良いわね。」
妻が言った。
子供と手をつなぎ、その髪を風になびかせ。
さしている日傘の裏側で、太陽がきらめいている。
「クナルパの魚って、本当に大きいね。」
子供が言った。
妻と手をつなぎ、その瞳を喜びに輝かせ。
その眼差しが、まっすぐ私のもとへと届いている。
道が伸びている。
私たちが歩いてきた道。
どこまでも伸び、やがて地平線へと消え行く。
いつから、ここを歩いていたのだったか。
今ではもう、それすら思い出せそうにない。
私は、妻と子供の名を呼んだ。
改めて名を呼ばれるのを、不思議に思ったのだろう。
二人の顔に、疑問符が浮かんだ。
その様子を見て、つい私の顔に苦笑が浮かぶ。
言いたいことは、いくらでもあるのだ。
いくらでもありすぎる。だから、言葉にならない。
もう一度、二人の名を呼んだ。
呼んで、二人の姿を瞳に焼き付けた。
後ろではクナルパの魚が、ゆっくりと空を泳いでいる。
風がそよぎ、大魚の涙がふわりと舞った。
「変な、おとうさん。」
とは、子供が洩らした呟きだ。
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